トラウマサミット2022【ベッセルヴァンデアコーク】トラウマ探求30年で学んだこと、新しいロードマップ
2022/07/12
子育てサポートこそ、最も効果的なメンタルヘルス介入
ベッセルヴァンデアコークは、最も効果的なメンタルヘルス介入は、子育ての早期介入と考えているそうです。
ハーバード大学のカーレンが、10代のシングルマザーで、出産してから2年後の子供たちをリサーチしたところ、子どもの86%が、攻撃的な行動をとるなど、問題行動を起こしていることがわかりました。
シカゴ大学の経済学者、ジョン・ヘックマンは、母親への早期介入プログラムについて研究し、ノーベル賞を受賞しましたが、それは社会が若い母親の育児支援に1ドル投資するごとに、社会全体では、医療費の減少、人々が仕事を持つことができる、人々が犯罪者にならない、などの点で7ドルの利益を得ることができることを発見したそうです。ベッセルは20,000人の子供たちを調査し、最も一般的なトラウマは、幼少期の身体的虐待、養育者の喪失、障害のある養育者の存在であり、幼少期の性的虐待、家庭内暴力、ネグレクト、幼少期の精神的虐待など、ほとんどすべてのトラウマは家庭から始まると言っています。
したがって、幼少期の子育てを社会がサポートすることが、社会全体にとってもプラスになるということを主張しています。
実際に、つい先日の安倍元首相の殺害事件においても、テレビメディアの報道では、SPなど警護体制の強化などの対策は論じられても、事件の真因が精神的なトラウマということについては触れられることはない。犯人が誰なのか、動機は何か?ということを報道されても、「深層の真相」については触れられない。
日本がもしこれからも平和国家を目指すならば、第9条の改憲以上に、トラウマに関する世界最高レベルのリテラシーを高めていき、「メンタルヘルス先進国」を掲げる必要があるのではないだろうか?それを実現できたならば、それこそ世界をリードする平和国家という名誉あるポジションを確保できるだろう。トラウマ界の社会起業家としてのベッセルヴァンデアコーク
彼は、単にトラウマと脳科学の研究者として一流なだけでなく、社会起業家的側面もきわ立っている。ベストセラーになった本によってPR活動をし、研究機関の資金調達や、研究機関の設立にも携わっている。
年間5,000万ドルの全米児童トラウマティック・ストレス・ネットワークを設立し、全米各地に診療所を含む拠点を設けたり、トラウマが子どもに与える影響を研究するセンターを立ち上げ、トラウマと子どもに関する治療を実施しネットワークを構築している。
彼は、トラウマを抱えた子どものためのボクシングプログラムに対してのリサーチのための資金集めをしたり、トラウマに対するタッチの効果に関する大規模な研究やニューロフィードバックとトラウマの研究などに対しての資金集めをおこなっている。
トラウマ治療について、これまでのエビデンスに基づいた治療法を超えて、フラダンス、MDMA、EMDR、ヨガの研究など幅広く研究している。
対人支援の世界で、「クライアントが抵抗している」という伝統に対して、ベッセルは、臨床家やセラピストが「学習」に対して抵抗しているのだと言っています。
臨床家やセラピストが、うまくいかない古い方法に固執しているだけかもしれないと警鐘を鳴らしていました。
自分たちのうまくいかないアプローチをクライアントのせいにするのは簡単ですが、うまくいかないので、ヨガをやってみようとか、ダンスや歌を取り入れようとか、IFS(内的家族システム)を取り入れようとか、EMDRを学んでみようとか、そのようにする必要があると主張しています。
また、同業のセラピストに対して、以下のような厳しい批判も述べています。
・私たちは、IFSなり、認知行動療法なり、自分の学んだアプローチを神格化しがちで、それによって、他のアプローチに対して可能性をシャットアウトしてしまっている。
・認知行動療法や、暴露療法などエビデンスに基づいた治療法をおこなう必要があるという考えが主張され続けたが、それが災難になっている。
ベッセルのリサーチでは、トラウマを受けている患者は、言語や理性を扱う左脳が機能せず、感情脳である右脳が使われているため、認知行動療法(CBT)や暴露療法はほとんど効果がない。
・カウンセラーなどの心理療法家は集団として、関係がすべてであり、関係がすべてを治すことができると考える傾向がありますが、トラウマを受けている人の場合、そもそも人間関係は安全なものではないと考えるため、それは必ずしも有効ではない場合がある。
・精神科医において、病名をつけることが、保険金目的になってしまい、本当のクライアントのための治療がなされず、腐敗している。
・精神科では、薬物療法よりもヨガの方が効果的であっても、社会経済的理由から、ヨガスタジオが併設されるクリニックは存在しない。
上記は、インテグラル理論や成人発達理論の観点とも非常に親和性が高い内容です。
私たちの認知バイアスにより、特定のアプローチがよいと思うと、そのアプローチのレンズでクライアントを見てしまうことにより、クライアントそのものを見ていないことになってしまう。
複合的に、多層的に、包括的に、さまざまなレンズで統合的にクライアントを理解し、うまくいくためのアプローチを模索していくということをベッセルヴァンデアコークも述べています。
私自身、心理学や心理療法だけでなく、さまざまなことを学んでいく際に、講師の先生から、「なぜあなたはそんなにいろんなことを学ぶの?」「そんなに色々勉強しても、すべてが中途半端になるのでは?」と嫌な顔をされたことはありましたが、ひとつのアプローチを学び、極めた人からすれば、そのように思うのも理解はできるものの、やはり自分にはその先生ほどしっくり来ないものがあり、学べば学ぶほど、ひとつのアプローチではうまくいくことよりも、うまくいかないものがあることを学んだ側面があります。
したがって、特に日本においては、さまざまなことを学ぶ生徒をよしとしない先生の意識のあり方も限界を生んでいる可能性がある。一つを極めることと、さまざまなアプローチや価値観の多様性を知ることは、どちらも大事であり、どちらかの問題ではない、ということを理解することが重要だと思います。
社会で起きている様々な事件も、このトラウマや神経生理学、脳科学のレンズで理解していくことで、氷山の一角である事実だけでなく、深層の真相が論じられるようになっていく機会が増えていくことを願っています。
彼は、単にトラウマと脳科学の研究者として一流なだけでなく、社会起業家的側面もきわ立っている。ベストセラーになった本によってPR活動をし、研究機関の資金調達や、研究機関の設立にも携わっている。
年間5,000万ドルの全米児童トラウマティック・ストレス・ネットワークを設立し、全米各地に診療所を含む拠点を設けたり、トラウマが子どもに与える影響を研究するセンターを立ち上げ、トラウマと子どもに関する治療を実施しネットワークを構築している。
彼は、トラウマを抱えた子どものためのボクシングプログラムに対してのリサーチのための資金集めをしたり、トラウマに対するタッチの効果に関する大規模な研究やニューロフィードバックとトラウマの研究などに対しての資金集めをおこなっている。
トラウマ治療について、これまでのエビデンスに基づいた治療法を超えて、フラダンス、MDMA、EMDR、ヨガの研究など幅広く研究している。
対人支援の世界で、「クライアントが抵抗している」という伝統に対して、ベッセルは、臨床家やセラピストが「学習」に対して抵抗しているのだと言っています。
臨床家やセラピストが、うまくいかない古い方法に固執しているだけかもしれないと警鐘を鳴らしていました。
自分たちのうまくいかないアプローチをクライアントのせいにするのは簡単ですが、うまくいかないので、ヨガをやってみようとか、ダンスや歌を取り入れようとか、IFS(内的家族システム)を取り入れようとか、EMDRを学んでみようとか、そのようにする必要があると主張しています。
また、同業のセラピストに対して、以下のような厳しい批判も述べています。
・私たちは、IFSなり、認知行動療法なり、自分の学んだアプローチを神格化しがちで、それによって、他のアプローチに対して可能性をシャットアウトしてしまっている。
・認知行動療法や、暴露療法などエビデンスに基づいた治療法をおこなう必要があるという考えが主張され続けたが、それが災難になっている。
ベッセルのリサーチでは、トラウマを受けている患者は、言語や理性を扱う左脳が機能せず、感情脳である右脳が使われているため、認知行動療法(CBT)や暴露療法はほとんど効果がない。
・カウンセラーなどの心理療法家は集団として、関係がすべてであり、関係がすべてを治すことができると考える傾向がありますが、トラウマを受けている人の場合、そもそも人間関係は安全なものではないと考えるため、それは必ずしも有効ではない場合がある。
・精神科医において、病名をつけることが、保険金目的になってしまい、本当のクライアントのための治療がなされず、腐敗している。
・精神科では、薬物療法よりもヨガの方が効果的であっても、社会経済的理由から、ヨガスタジオが併設されるクリニックは存在しない。
上記は、インテグラル理論や成人発達理論の観点とも非常に親和性が高い内容です。
私たちの認知バイアスにより、特定のアプローチがよいと思うと、そのアプローチのレンズでクライアントを見てしまうことにより、クライアントそのものを見ていないことになってしまう。
複合的に、多層的に、包括的に、さまざまなレンズで統合的にクライアントを理解し、うまくいくためのアプローチを模索していくということをベッセルヴァンデアコークも述べています。
私自身、心理学や心理療法だけでなく、さまざまなことを学んでいく際に、講師の先生から、「なぜあなたはそんなにいろんなことを学ぶの?」「そんなに色々勉強しても、すべてが中途半端になるのでは?」と嫌な顔をされたことはありましたが、ひとつのアプローチを学び、極めた人からすれば、そのように思うのも理解はできるものの、やはり自分にはその先生ほどしっくり来ないものがあり、学べば学ぶほど、ひとつのアプローチではうまくいくことよりも、うまくいかないものがあることを学んだ側面があります。
したがって、特に日本においては、さまざまなことを学ぶ生徒をよしとしない先生の意識のあり方も限界を生んでいる可能性がある。一つを極めることと、さまざまなアプローチや価値観の多様性を知ることは、どちらも大事であり、どちらかの問題ではない、ということを理解することが重要だと思います。
社会で起きている様々な事件も、このトラウマや神経生理学、脳科学のレンズで理解していくことで、氷山の一角である事実だけでなく、深層の真相が論じられるようになっていく機会が増えていくことを願っています。